デジタルデータなのに唯一無二? NFTアートがアートとして特別な理由
「NFTアート」という言葉を耳にしたことはありますか。デジタルデータなのに、なぜか高い値段がついたり、「唯一無二」と言われたりしているのを聞いて、不思議に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
私たちが普段目にしているスマートフォンの写真やパソコンのイラストは、簡単にコピーして友達に送ったり、SNSに投稿したりできます。全く同じものがいくつも作れてしまう、それがデジタルデータの性質です。
それなのに、なぜNFTアートは「唯一無二」なのでしょうか。そして、デジタルデータなのに、どうして「本物のアート作品」のように扱われるのでしょうか。
この記事では、そんな皆さまの疑問にお答えするため、NFTアートがアートとして特別な理由を、専門用語を避けながら分かりやすく解説いたします。
デジタルデータはなぜ簡単にコピーできるのか
まず、私たちが普段扱っているデジタルデータが、なぜ簡単にコピーできてしまうのかを考えてみましょう。
パソコンやスマートフォンの中にある画像ファイルや音楽ファイルは、情報を「0」と「1」の数字の並びで記録しています。この数字の並びをそっくりそのまま別の場所にコピーすれば、見た目も音も全く同じものができあがります。これは、文字を書いた紙をコピー機でコピーするようなものです。元の情報が完全に複製されるので、区別がつかないコピーがたくさん作れてしまいます。
そのため、インターネットが普及して、デジタルデータが簡単に共有できるようになるにつれて、デジタルアートの世界では「これがオリジナルだ」と証明することが難しい、という課題がありました。素晴らしいデジタルイラストや音楽が作られても、瞬く間に世界中にコピーが広まってしまい、「オリジナルの価値」が見えにくくなってしまったのです。
NFTが登場、デジタルデータに「証明書」が付く仕組み
そこで登場するのが「NFT」という技術です。
NFTは「Non-Fungible Token(ノンファンジブルトークン)」の略称ですが、難しい名前は一旦忘れてしまって大丈夫です。ここでは、NFTを「デジタル世界における、『これは本物ですよ』という証明書」であり、「この証明書を持っている人が、そのデジタルデータの『所有者』です」という記録だと考えてみてください。
この証明書(NFT)は、「ブロックチェーン」という特別な技術を使って作られています。ブロックチェーンは、簡単に言うと、世界中のコンピューターが協力して、ある記録(例えば「誰が、どの証明書を、いつ手に入れたか」という情報)をみんなで監視し、書き換えることが非常に難しい仕組みのことです。一度ブロックチェーンに記録された情報は、ほぼ消したり改ざんしたりすることができません。
なぜNFTアートは「唯一無二」と言えるのか
さて、ここからが重要です。NFTアートの場合、この特別な「証明書」(NFT)が、作られたデジタルアート作品(例えば、ある一枚のデジタルイラストのデータ)と紐づけられます。
デジタルイラストのデータ自体は、やはりコピーして広めることができます。しかし、その「このイラストのオリジナルであることを証明するNFT」は、たった一つしか存在しません。そして、そのたった一つのNFTを誰が持っているかという情報は、ブロックチェーンに安全に記録され、誰でも確認できるようになっています。
これは例えるなら、有名な絵画の「本物」の絵画データ(誰でも写真に撮れる)と、その絵画が「確かに〇〇先生によって描かれた本物であり、現在は〇〇さんが所有しています」という情報を記した「鑑定書付きの所有証明書」(これはコピーできない)がセットになっているようなものです。
デジタルアートのデータ(コピー可能) + NFT(コピーできない「証明書」と「所有記録」)
このNFTがあることによって、たとえデジタルデータ自体がコピーされても、「オリジナルの証明書がついた、本当の所有物」がデジタル世界に誕生するのです。だからこそ、NFTアートは「唯一無二」と言われます。厳密にはデータそのものではなく、「データに紐づいた、唯一無二の証明書と所有記録」が存在する、ということです。
NFTアートが「アート」として注目される理由
NFTがこの「唯一無二の証明」を可能にしたことで、デジタルアートの世界には大きな変化が起きました。
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デジタルデータに「希少性」と「所有権」が生まれた これまで簡単にコピーできたデジタルアートに、「これが本物」「これを持っているのが所有者」という概念が生まれたことで、物理的なアート作品のように「希少性」や「所有権」が明確になりました。これにより、アートとしての価値を判断しやすくなり、コレクションの対象としても注目されるようになったのです。
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アーティストの可能性が広がった アーティストは、自分のデジタル作品にNFTをつけることで、「これが私のオリジナルの作品です」と明確に証明できるようになりました。また、インターネットを通じて世界中の人に作品を見てもらい、直接販売することも可能になりました。さらに、作品が将来、別の誰かに売買された場合(二次流通)、その売買金額の一部がアーティストに還元されるような設定(設定によっては)もできるようになり、アーティスト活動の新しい形が生まれています。
NFTアートの価値について冷静に考える
NFT技術によってデジタルデータに「唯一無二」の証明ができるようになったことは事実です。しかし、「技術的に本物であることが証明できること」と、「そのアート作品に芸術的な価値があるかどうか」は、また別の問題です。
NFTアートの価格は、市場での人気や評価、作品の質、アーティストの知名度など、様々な要因によって変動します。購入したNFTアートの価値が、必ずしも上がるとは限りませんし、大きく下がる可能性もあります。
NFTはあくまで「証明」と「仕組み」を提供する技術であり、その技術が使われているからといって、全てのアート作品に高い価値がつくわけではありません。どのような作品に価値を見出すかは、最終的には私たち見る側、あるいは市場が決めていくことになります。
これからNFTアートを始める方へ:知っておくべき心構えと注意点
NFTアートの世界は、まだ新しく、日々変化しています。興味を持って、これから一歩を踏み出してみたいと思われた方のために、いくつか大切な心構えと注意点をお伝えします。
- まずは仕組みを理解すること: 焦ってすぐに購入するのではなく、この記事のように、まずはNFTやブロックチェーンの基本的な仕組みを理解することから始めましょう。
- リスクがあることを知る: NFTアートの価格は大きく変動する可能性があります。また、残念ながら、この新しい分野にも詐欺や技術的なトラブルは存在します。安全対策については、他の記事でも詳しく解説していますので、ぜひそちらも参考にしてください。
- 無理のない範囲で: もし購入に挑戦してみたいと思った場合でも、ご自身の生活に影響が出ない、失っても大丈夫だと思える少額から始めることを強くお勧めします。
- 「本物」の証明があっても: NFTによって「唯一無二」の証明ができるようになったことは素晴らしいですが、それが即座に「価値のあるアート」を意味するわけではないということを忘れずに、冷静な目で作品を見るようにしましょう。
まとめ
デジタルデータは簡単にコピーできる。この常識を覆し、デジタルアートに「唯一無二」の証明と「所有」の概念をもたらしたのがNFT技術です。
NFTは、デジタルデータに紐づくコピーできない「証明書」と「所有記録」をブロックチェーン上に刻むことで、デジタルアートを物理的なアート作品と同じように、オリジナル作品として扱える新しい可能性を開きました。これにより、アーティストは作品を証明しやすくなり、コレクターはデジタルアートを所有する喜びを得られるようになったのです。
NFTアートの世界は、始まったばかりの刺激的な分野です。この記事を通して、NFTアートがなぜ特別なのか、その基本的な仕組みの一端をご理解いただけたなら幸いです。
これからNFTアートの世界を学びたい、始めてみたいと思われた方は、ぜひ他の解説記事も参考にしながら、仕組みをしっかりと理解し、安全対策を万全にした上で、ご自身のペースでゆっくりと進んでいってください。安全に、そして新しいアートの世界を楽しみながら、学んでいきましょう。